『できない私が、くり返す。』と『生命のスペア』の対比雑記

 『生命のスペア』の情報が公開された時から、「興味あるけど雰囲気が『できない私が、くり返す。』に似てるから模倣に留まってしまうのでは」みたいな感覚を勝手に抱いていた(正確には「そこからどう逸脱するのか」に興味があったのかも知れない)。

 結果を言えば、この二作品は似た雰囲気を持ちながらも対照的だったという感想を抱いた。『生命のスペア』は比較的二次元的二次元作品で、『できない私が、くり返す。』は三次元的二次元作品という感じ。

 『生命のスペア』では、恵璃が「竜次のことを純粋な意味で愛していないのではないか。自分の不安を和らげるために自分の側に置いているのではないか」と悩み、竜次はそれに対して「どんな形でも君が僕を求めてくれたのなら、僕はそれに応えたい」と返した。

 『できない私が、くり返す。』では、詩乃が陸に「あなたは私じゃない誰かを私に投影して私と恋愛している」と言い、陸はそれに対して明確に反論できず破局する。そしてその後、時間逆行を用いて今度こそほんとうの意味で詩乃と向き合おうと決意をする。

 上記の『できない私が、くり返す。』で詩乃が拒絶した「本当の意味で相手を好いていない」という問題を、『生命のスペア』では竜次が受容しているという点で、二作品が対照的だと感じた(自分としては詩乃の拒絶した「好きな人に他の何かを投影すること」が「相手を好いていない」には繋がらないのだが、それはまた別の話なので割愛)。

 他にも細々した点で対照的に感じる部分はあった気がするがとりあえず主だった部分は上記のものなのでこれについては以上。

 これ以外にも、『できない私が、くり返す。』から『生命のスペア』に継承されていた点があったのでそれについて。

 漣

「先にある未来が変わらないのであれば、

 そこに辿りついてしまうまでの日々を、

 懸命に生きていくべきじゃないのかな――ってね」

 

「懸命に、生きていく……」

 

「要するに、後悔しないように生きましょう、ってことさ」

 

――『できない私が、くり返す。』

 

 恵璃

「一度この病気になったら、

 あとは悔いなく生きてくださいって言われてる気分」

「まあ、そう言われたからこそ、

 私は全力で従ってる状態なんだけどね」

 

竜次

「後悔、ないか?」

 

恵璃

「愛する人と一緒にいられて、何を後悔しろって言うのさ」

 

――『生命のスペア』

 

 『できない私が、くり返す。』の主たるメッセージのひとつ、「後悔せずに生きましょう」を『生命のスペア』に引き継がれている。『できない私が、くり返す。』をプレイしたのがまだ最近というのもあって色々と感じる部分があった。ただ、後悔なく全力で生きても、限られた時間の中では悔いは残るよなあと思った。そういうのもあって、二次元的ではなく比較的二次元的と表記したわけです。

 

とりあえず以上です。

『生命のスペア』 雑記

 『生命のスペア I was born for you.』というタイトルであるが、作品から伝わってくることは「生命に代用はないし、あなたは他人の代用として生まれたわけじゃないよ」といった感じで、タイトルとは逆を行くような印象だった。

 逆を行くという点では『できない私が、くり返す。』の時も同じようなことを感じたし、ライターがそういうのが好きなのかも知れないと思えた(中島大河シナリオはこの2本しかやってないのでこれだけで判断するのはどうかとは思うけど)。

 

 主人公や周辺人物が超常的な能力を持っていたり、世界そのものの在り方が僕らの居る世界と違ったりということは特になく、作品の世界観は三次元的であったと思う。

 主人公と恵璃の人生観というか思想の在り方というか、それに関しては主人公は二次元的、恵璃は三次元的であったように思う。ただ、恵璃に関しては時が進むに連れてその在り方が二次元的方向へのシフトしていたので、最終的には二次元的であったと思う。作中でそう感じる場面は何度もあったが、印象的なのは

 

 恵璃

「しあわせなまま長生きするって?

 ふうん、贅沢なこと言っちゃうんだね」

 

竜次

「でも、それが理想だろう」

 

恵璃

「まあね。……ま、理想は理想のままなんだけど」

 

――『生命のスペア』

 

恵璃

「奇跡、って呼んでいいのかな?これは」

 

竜次

「その呼び方するなら、もう少し違う何かが起きて欲しかった」

 

恵璃

「痣が綺麗さっぱり消えましたー、とか?」

 

竜次

「そう、だな。それくらいの方が奇跡って呼べる」

 

恵璃

「ま、残念ながらそんなことはないっぽいけどね」

 

――『生命のスペア』

 

 恵璃

「やだよ、生きたいよ……!

 竜次と、もっと……もっと、過ごしてたい……!!」

 

竜次

「っ……諦めてるって、言ってなかった、か……っ?」

 

恵璃

「その、つもり、だったよ……?

 ちゃんと死ぬ覚悟、できてるつもりだった……!」

「でもっ……でもぉ!

 竜次と離れたくないって気持ち、すごく、強い……!」

「嫌だよぉ……!

 ずっと、竜次と、生きていたい……!!」

 

――『生命のスペア』

 

 上二つの引用は竜次が二次元的で恵璃が三次元的、最後の引用は物語終盤で、この場面では両者ともに二次元的思想となっている。恵璃の諦めの姿勢が終盤になって揺らいだのは、竜次が一貫して諦めない姿勢を貫いていたからなのだろうと思う。二次元世界に於いて最も力を持つのは、やはり理屈や理論ではなく世界認識や意思の力なのだと思うことが多い。

 ただ、本作品は二次元作品ではあるが三次元的作品であるため、竜次の意思の力が干渉できたのは恵璃の意思のみに留まり、ああいう結末になったのだと思う。奇跡の起き得ない世界で奇跡を願いながら生きていく姿は、傍から観ているととても息苦しいものだった。そして、この息苦しさが本作品のひとつの魅力というかポイントのようなものだったと思う。

 あとは最初に書いたように「生命に代用はないし、あなたは他人の代用として生まれたわけじゃないよ」という、生命の唯一性がこの作品の主だったメッセージだと思う。言ってることは単純で、ありきたりと言ってしまえばそれまでだけど、そのメッセージを光らせるだけの視覚や聴覚への情報量と演出があり、ミドルプライスでここまで出来るのであれば十分良い作品だと思える。

 

 

シャドウバース コンボエルフレシピ

 ランクA0到達したので現在使用しているコンボエルフのレシピを投下

 画質がアレなのは勘弁してください何でもはしません

 スマホから観るとレシピのテキストとかぐちゃぐちゃになるからPCから観たほうがいいよ

 

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ベビーエルフ・メイ    *3     自然の導き        *3

フェアリーサークル    *3     ベルエンジェル      *2

フェアリーウィスパラー  *3     エルフガード       *2

メタルエルフメイジ    *2     ダンジョンフェアリー   *2

ワンダーエルフメイジ   *3     ブレスフェアリーダンサー *3

リノセウス        *3     森荒らしへの報い     *3

妖精のいたずら      *2     エンシェントエルフ    *3

エルフプリンセスメイジ  *2     風神           *1

 

 某倍速コンボエルフ動画を参考に組んだ感じなのでそっちを観たほうが早いみたいなところはある。

 

 とりあえず面倒な相手フォロワーは除去してソレ以外は適度に無視しながら顔面殴って削っておいて、中~終盤にリノセウスリサイクルとかブレスフェアリーリサイクルとかで削り切るような感じ。

 

 リノセウス→自然の導き→リノセウスで合計5PP消費で、与ダメージは (1+n)+(3+n) = 4+2n になる(進化消費ならこれに+2点)ってのを覚えておけばOK.(n=リノセウスリサイクル前に消費したカード数)

 

 n=0 :   4点 : 2→1→2で最低5PP : リノセ→導き→リノセ 等

 n=1 :   6点 : 1→2→1→2で最低6PP : 1コス1枚消費→リノセ→導き→リノセ 等

 n=2 :   8点 : 1→1→2→1→2で最低7PP : 1コス2枚消費→リノセ→導き→リノセ 等

 n=3 : 10点 : 1→1→1→2→1→2で最低8PP : 1コス3枚消費→リノセ→導き→リノセ 等

 n=4 : 12点 : 1→1→1→1→2→1→2で最低9PP : 1コス4枚消費→リノセ→導き→リノセ 等

 

 リノセウスを進化させて殴ればこの点数に+2点

 

 消費コスト上がるけど導きじゃなくていたずらやエンシェントエルフでリサイクルもできるからそっちの合計PPも覚えておけばなおのこと良い

 

 ブレスフェアリーリサイクルも導き使用なら合計5PP、n=場にいるアタックできるフォロワーの数で、ブレス→導き→ブレス打てば 2n+(元の攻撃力の合計)のダメージが出せる(全部顔面殴った時の話)

 

 場のフォロワーの打点を1と仮定した場合

 n=1 :  3点

 n=2 :  6点

 n=3 :  9点

 n=4 :12点

 

 またそのうち追記するかも。

『できない私が、くり返す。』詩乃√及びRe:Call√を主とした雑記

 『できない私が、くり返す。』というタイトルではあるが、ループモノという感じはしなかった。時計を使って時間を戻すという超越的な力を有しながらも、その世界観は極めて我々の居る世界に類似した、『馴染みある世界の話』という感覚が強い。

 

 詩乃√における詩乃は、陸の願いを写し出す鏡のような存在に思えた。だから陸は詩乃の姿を通して過去の想い人である漣さんを無意識に見ていた。また、詩乃が言った『生きたい』という願いは、詩乃の願いではなく、陸が詩乃(を通して見ている漣さん)に『生きて欲しい』という想いが写し出されたもののように思えた。

 

 対してRe:Callでは漣さんへの想いを決着させることで、詩乃に鏡ではなく詩乃として向き合うことが出来た。そして、詩乃が鏡ではなくなったことで、その口から発せられる願いは『生きたい(陸の望み)』から『最期まで一緒に居たい(詩乃の望み)』に変わる。そして、その願いを叶えて、この物語は終わる。

 

 この作品から伝わったのは、作中で漣さんが言うように『後悔しないように生きろ』ということ。限られた時間と、限られた選択肢に抗うことも悪くはないのかもしれない。でも、その限られた時間と選択肢の中で、自分にとって意味あるものを見つけ、向き合っていくことが大事なんじゃないかと、そんな感じ。

 

 こういう、作品全体の雰囲気から、どうにも『どこか遠いところのお話』ではなく『僕達の世界の話』のように感じられた。だから、この作品をやっている間(特に詩乃√とRe:Call√)は、ひどく息苦しかった。

 

 さて、Re:Call√は、理想的・二次元的・ハッピーエンドとはいえないかもしれないが、十分にグッドエンドと呼べるものだと思っている。しかしそれは、あくまでも陸が時間を戻した後の世界においてである。

 時間を戻す前、詩乃と別れ、死に際を見ることのなかった詩乃√は、完全にバッドエンドである。そして、このバッドエンドは、客観的事実としては存在していないが、陸の主観的な事実としては確かに存在しており、時間を巻き戻したからといって、無くなるわけではない。

 あの時計はあくまで時間を戻すものであり、やり直すためのものではない。詩乃√で詩乃を精神的に救えなかったことと、Re:Call√で詩乃を精神的に救えたことは、全く別の事実であり、詩乃√の詩乃を救えなかった事実は永遠に変わらない。

 これは、あらゆるループ系作品に対する『ループして望む未来を手に入れても、それまでの事実がなかったことになるわけではない』というメッセージのように思える。時間を巻き戻した者は、巻き戻した回数と同じ数の世界を、独りで抱えて生きていかなければならない。

 

 Re:Call√で陸が向き合った詩乃は、果たして本当の詩乃だったのだろうか。陸は詩乃√の詩乃との別れを経験し、Re:Call√へと時間を巻き戻し、再び詩乃と出会い、その最期を迎えた。陸は、詩乃√で願いを叶えてやれなかった詩乃の影をRe:Call√の詩乃に重ねていたのではないかと思う。

 ただ、そのことに陸も詩乃も気付いておらず、気付かないまま、ハッピーとは行かないまでもグッドエンドといえるほどのエンディングを迎えている。気付かないまま終わったことを悪いとは思わないし、むしろこの作品から終始漂う三次元的雰囲気からすれば、この終わり方がある種正しいとさえ思える。

のんのんびより 宮内れんげの夢説

 ダム開発によって水底に沈んだ故郷。

 故郷を失い、友と離れ離れに。

 同じ頃、両親が急死。

 転校先の学校では、訛りをバカにされ、いじめの対象に。

 大切なモノを次々に失い、現実に絶望した宮内れんげは、深い眠りに落ちる。

 彼女はそこで『夢 -のんのんびより-』 を見る。

 

 「――ここには、うちの大切なモノが、全部あるのんな。」

 

宮内れんげの両親が姿を現さない理由

 『会いたいけれど、会えない』という状態が、『のんのんびより』の世界に反映された結果、『存在はしているが、会うことはできない』という状態となったと考えられる。

 友人たちは村が無くなったことで離れ離れになっただけであり、物理的に会うことが不可能なわけではない。しかし、両親はこの世界からいなくなってしまっている。この違いが、『のんのんびより』という世界にも反映されているのであろう。

 

越谷卓の曲げわっぱ制作に込められたメッセージ

 越谷卓が曲げわっぱを作っていたのは、『この世界はこの曲げわっぱのような環となりループしている』というメッセージであると考えられる。

 

宮内れんげか小学1年生なのに掛け算を一瞬で理解した理由

 現実では既に掛け算を学習し終わっている年齢であり、その記憶の中から掛け算の方法が呼び起こされたため、一瞬にして掛け算を理解したと考えられる。

 

アニメ2期が1期の続きではなく、補完的な位置だった理由

 宮内れんげは現実世界の『変化』によって様々なモノを失った。故に『のんのんびより』に宮内れんげが望むものは『不変』である。このことから、2期は1期の『続き』ではなく『補完』であったと考えられ、今後3期が制作されたとしても、それは『続き』ではなく『補完』となるであろう。

 

こだまことだま』の歌詞から観る、『のんのんびより』の世界

 あの子が笑う 無邪気に笑う 夢を見る:

 宮内れんげが『のんのんびより』という夢を見ていることを示している

 

 何回もくり返す そのたび涙する:

 『のんのんびより』という世界が同じ1年を繰り返していること、その繰り返しの世界から現実に戻らない宮内れんげを見て涙する者がいるということを示している

 

『おかえり』の歌詞から観る、『のんのんびより』の世界

 ここは世界一優しい おかえりが待ってる場所:

 宮内れんげの望む場所、つまり村のみんながいる場所、それが『のんのんびより』であるということを示す

 

 いつも変わらない愛しさが 出迎えてくれる場所 ほら また季節が歌ってる:

 『変わらない愛しさ』、『また季節が』というワードから、『のんのんびより』という世界が不変でありループしていると推測できる

 

 遠くで聞こえるよ 「帰っておいで」:

 『遠く』は現実を示し、『帰っておいで』は現実で宮内れんげの目覚めを待つ人達の祈りを示す

 

まとめ

 上記の妄想から、のんのんびよりは、現実に絶望した宮内れんげが創りだした夢空間での出来事であり、その世界は1年でループしていると考えることが十分に可能である。彼女をのんのんびよりから連れ出すことと、このまま眠らせ続けること、どちらが幸福であるか、我々は考えながらこの作品と向き合わなければならない。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。2巻 3巻 雑記

 

比企谷八幡は勘違いをして、間違えた

 「あのさ、別に俺のことなら気にする必要ないぞ。お前んちの犬、助けたのは偶然だし、それにあの事故がなくても俺、たぶん高校でぼっちだったし。お前が気に病む必要全くなし。あ、いや自分で言うのもなんだけどよ」

「悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。まぁ、でもこれからはもう気にしなくていい。俺がぼっちなのはそもそも俺自身が理由だし事故は関係ない。負い目に感じる必要も同情する必要もない。……気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」

 

 ほんの僅か、自分の語気が荒くなったのを自覚した。ああ、いかんな。何をカリカリしてんだ俺は。こんなのなんでもないことなのに。

 俺は苛立ちを誤魔化すようにがりがりと頭を掻いてしまう。さっきから流れているこの沈黙が気まずい。

 初めて沈黙を苦手に思った。

 

「まぁ、その、なんだ……」

 

 とりあえず口を開きはするものの、言うべき言葉が見つからず、具体的なことが出てこない。お互い言葉に詰まると、由比ヶ浜がにへらと笑った。

 

「や、やー、なんだろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんてーの?……や、ほんとそんなんじゃなくて……」

 

 由比ヶ浜はその笑い方のまま、ちょっと困ったように下を向く。俯いているせいで表情は見えなくなった。ただか細い声がちょっと震えている。

 

「そんなんじゃ、ないよ……そんなんじゃ、ないのに……」

 

 小さな声で由比ヶ浜は言う。何処までも優しい由比ヶ浜結衣は、たぶん最後まで優しい。

 真実は残酷だというなら、きっと嘘は優しいのだろう。

 だから、優しさは嘘だ。

 

「あー、まぁなんだ、ほら」

 

 声をかけると、由比ヶ浜はキッと俺を睨みつけた。目に涙を溜めて、それでも俺から目を逸らさず、その強い瞳に俺のほうが目を逸らしてしまった。

 

「バカ……」

 

 そう言い残して由比ヶ浜はたっと走り出した。だが、数メートルも離れると、その足取りは重くなり、心なしかとぼとぼ歩くようになった。

俺はそれを見送り、くるりと踵を返した。

 由比ヶ浜はみんなが待つサイゼへ行ったのかもしれない。けれど、俺には関係ない。

 俺、人混み嫌いだしな。

 あと、優しい女の子も、嫌いだ。

 

 いつだって期待して、いつも勘違いして、いつからか希望を持つのはやめた。

 だから、いつまでも、優しい女の子は嫌いだ。

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻 P257,L3 - P260,L3 一部省略

 

 比企谷八幡は優しい女の子が嫌いで、由比ヶ浜結衣を優しい女の子だと思っていた。だから由比ヶ浜結衣が自分に気を遣っているのだと思い、それを拒絶した。

でもきっと由比ヶ浜結衣は、気を遣って比企谷八幡と一緒に居たのではないのだろう。だから、由比ヶ浜結衣はただの優しい女の子なんかじゃない。

 比企谷八幡は由比ヶ浜結衣を優しい女の子だと勘違いして、由比ヶ浜結衣を拒絶するという間違いを犯した。

 

平塚静は責め立てる

 「君たちは何か勘違いをしていないかね?」

 

 それは問いかけでも確認でもなく、訓告であっただろう。疑問の形をとりながらも暗に俺たちの罪科を責め立てるためのものだった。

 答えられず、俺と雪ノ下が黙ると、平塚先生はなおも続ける。

 

「ここは君たちの仲良しクラブではない。青春ごっこならよそでやりたまえ。私が君たち奉仕部に課したものは自己変革だ。ぬるま湯に浸かって自分を騙すことではない。」

 

 きゅっと唇を嚙みしめて雪ノ下がそっと目を逸らす。

 

「奉仕部は遊びではないよ。れっきとした総武高校の部活動だ。そして、君たちも知っての通り、やる気がない者に構ってやるのは義務教育までだ。自ら選択してこの場にいる以上、意思なき者は去るほかない」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻 P36,L16 - P37,L12

 

 比企谷八幡は人に言われて自分を変えることを嫌う。雪ノ下雪乃は他人に対しては問題解決のために自分を変えろと言うが、自分に関しては例外的で、自分ではなく他者(自己の周囲)を変えると言う。

 自分を変える気がない二人に対して、平塚静は奉仕部を自己変革の場だと言う。なぜ二人を変えようとするのか。そこがまだよく分からない。

 

材木座義輝はやはり正しい

「始め方が正しくなくても、中途半端でも、でも嘘でも偽物でもなくて……、好きって気持ちに間違いなんてない…と、思う、けど」

 

「……そうだ。その通りだ。……たしかに、俺には、誇れるものはない」

 

 声に作りこんだ色はなかった。情けないほど震えていて、つっかえながら、けれどもけっして途切れることはなく、言葉は続けられる。

 

「だから、これに賭ける。それの何がおかしい!貴様らは違うのか!」

 

 ずびっと洟を啜り、わなわなと肩を揺らして、材木座は慟哭した。息も切れ切れで、潤んだ瞳で睨みつける姿はどうみても敗残者のそれだ。

 そんな痛々しい材木座を、秦野と相模は嫌悪に満ちた目で見た。いや、材木座ではなく、痛々しかった頃の自分たちをそこに見ていたのかもしれない。

 ――きっと、彼らだって好きなのだ。夢を抱いていたのだ。

 けれど、夢は一人で背負い続けるには重すぎる。

 大人になるにつれ、リアルな将来が見えてきて夢物語ばかり追っていられなくなる。

 みんな冗談交じりに働いたら負けだっつーが、あながち間違ってやしない。

 そんな世界で夢だけ負う生活は苦しくて悔しくて、考えただけでため息が出る。

 好きなだけじゃダメだったのだ。

 だから彼らは補強した。知識を蓄えて、夢だけ見てる連中を眺め自分は違うのだと己を鼓舞した。

 ――けっして諦めたくないから。その行為を否定することがどうしてできる。

 

「……あんた、現実知らなすぎだよ。現実と夢は違う」

 

「そんなことはとうの昔に知っている!作家になると投稿を続けていたゲーセン仲間は就職した!二次選考に通ったことを自慢していた人は今ニートだ!俺だって、現実くらい、知っているんだ……」

ラノベ作家になると言えば、聴いた奴の九割九分は『バカな夢見てんじゃねーよ』だの『現実見ろよガキ』だのと腹の底でせせら笑ってることだって、知っている!それでも……」

 

 ……そうだよな。俺たちは現実を知っている。

 だからいつしか諦めて、夢を見ていた自分を、夢を見ている人を笑いたくなる。笑って、誤魔化したくなる。

 だっていうのに、なんだってこいつは泣き叫びながら、洟を啜りながら、声を震わせながら、夢を語れるんだろうな。

 

「今、はっきりと確信した。我は作家になれなくてもライターになれなくても、それでも書き続ける。なりたいから好きなわけではない!……好きだから、なるのだ!」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻 P214,L16 - P217,L9 一部省略

  

 めちゃくちゃカッコいいじゃん、材木座。

 「現実見ろよ」なんて言葉、ゲーム作りに関わろうとしてる人間が使う言葉じゃないよね。人に夢見させるモノ作ろうとする人間が「現実見ろよ」とか言っちゃったらお終いでしょ。だから材木座は正しい。

 現実と夢は違うかもしれないけれど、夢が不可能なものってわけじゃない。夢作ってる人間が、夢を否定しちゃダメだよね。だから秦野と相模の「夢を見ることの否定」は間違っていると思う。だけど、彼らが現実を見て、現実的な努力をしていることは正しいし、その点に関しては、何もしていない材木座が間違っている。秦野と相模が間違っていたのは「現実だけを見ていた」という点。

 

 比企谷八幡と由比ヶ浜結衣が始まる

 これで開放されるのだ、全部終わりにできる。痛々しい勘違いも見当違いの自衛行動も。たぶん、これすらも痛々しい勘違いで見当違いの自衛行動なんだろうけど。

 

「……なんでそんなふうに思うの?同情とか、気を使うとか、……そんなふうに思ったこと、一度もないよ。あたしは、ただ……」

「なんか、難しくてよくわかんなくなってきちゃった……。もっと簡単なことだと思ったんだけどな……」

 

「別に、難しいことではないでしょう」

「比企谷くんには由比ヶ浜さんを助けた覚えはないし、由比ヶ浜さんも比企谷くんに同情した覚えはない。……始まりからすでに間違っているのよ」

 

「まぁ、そうだな」

 

「ええ。だから、比企谷くんのいう、『終わりにする』という選択肢は正しいと思う」

 

 始め方が間違っていたのだから、結果もまた間違っていて当然だ。そこにどんな想いが込められていたとしても、答えはきっと変わらない。

 仮に。もし仮に。その想いがなにか特別なものであったとしても、だ。

 偶発的な自己で芽生えただけの感情を、自己犠牲を払ったおかげで向けられた同情を、他の誰かが救ったとしても生まれていた可能性のある恋情を、本物と認めることはできない。

 俺が彼女を彼女と認識せずに救ったのならば、彼女もまた、俺を俺と認識せずに救われたのだから。なら、その情動も優しさも俺に向けられているものではない。救ってくれた誰かへのものだ。

 だから勘違いしてはいけない。

 勝手に期待して勝手に失望するのはもうやめた。

 最初から期待しないし、途中からも期待しない。最後まで期待しない。

 由比ヶ浜はしばらく黙りこくっていたが、ぽつっと呟いた。

 

「でも、これで終わりだなんて……なんか、やだよ」

 

「……馬鹿ね。終わったのなら、また始めればいいじゃない。あなたたちは悪くないのだし」

「あなたたちは助けた助けられたの違いはあっても等しく被害者なのでしょう?だなら、全ての原因は加害者に求められるべきじゃない。だったら……」

「ちゃんと始めることだってできるわ。……あなたたちは」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻 P238,L1 - P240,L7 一部省略

 

 この一件、勘違いをしていたのは最初から最後まで比企谷八幡ただ一人だ。由比ヶ浜結衣は気を遣っていたわけではないし、救ってくれた誰かへの想いを向けていたわけでもない。だから、「勘違いをしてはいけない」という想いそのものが勘違いだ。

 「たぶん、これすらも痛々しい勘違いで見当違いの自衛行動なんだろうけど。 」という文から、そのことに比企谷八幡自身気づいているのだろうが、そう思いながらもその自衛行動を取ったのかがいまいちわからない。わからないのでこれについては書かない。わかったら書く。

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。1巻 雑記

比企谷八幡は逃げ出さない

「そうじゃねえよ。……なんだ、その、変わるだの変われだの他人に俺の『自分』を語られたくないんだっつの。だいたい人に言われたくらいで変わる自分が『自分』なわけねえだろ」

 

「あなたのそれはただ逃げているだけ。変わらなければ前に進めないわ」

 

「逃げて何が悪いんだよ。変われ変われってアホの一つ覚えみたいに言いやがって」

「変わるなんてのは結局、現状から逃げるために変わるんだろうが。逃げてるのはどっちだよ。本当に逃げてないなら変わらないでそこで踏ん張んだよ。どうして今の自分や過去の自分を肯定してやれないんだよ」

 

「……それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」

 

 「救う」なんて一介の高校生が言う言葉じゃないだろう。いったいなにが彼女をそこまで駆り立てているのか、俺にはとてもじゃないがわからない。

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』1巻 P41,L5 - P42,L9 一部省略

 

 比企谷八幡は問題を解決するために自分を変えずに踏ん張れと言う。この踏ん張れっての、我慢するってことじゃなくて、自分を変えないために周りを変えろってことだと思う。

 雪ノ下雪乃は自分を変えろと言う。変わらなければ前に進めない、前に進むべきだと。…前に進まなきゃダメですかね。別に前に進まなくても俺はいいと思うんです。

 比企谷八幡は今の自分や過去の自分を肯定できるだけの自信がある。雪ノ下雪乃にはそれがない。そういう違いでしょうか。

 

雪ノ下雪乃は世界を変えたい

 「でも、それは仕方がないと思うわ。人はみな完璧ではないから。弱くて、心が醜くて、すぐに嫉妬して蹴落とそうとする。不思議な事に優れた人間ほど生きづらいのよ、この世界は。そんなのおかしいじゃない。だから変えるのよ、人ごと、この世界を」

 

「努力の方向があさってにぶっ飛びすぎだろ……」

 

「そうかしら。それでも、あなたのようにぐだぐだ乾いて果てるより随分マシだと思うけれど。あなたの、そうやって自分の弱さを肯定してしまう部分、嫌いだわ」

 

 雪ノ下雪乃は持つものであるがゆえに、苦悩を抱えている。

 きっとそれを隠して、協調して騙し騙し、自分と周りをごまかしながらうまくやることは難しくないはずだ。世の中の多くの人間はそうしているのだから。

 けれど雪ノ下はそれをしない。

 自らに決して嘘をつかない。

 その姿勢だけは評価しないでもない。

 だって、それは俺と同じだから。

 

 ――きっと俺と彼女はどこか似ている。柄にもなくそんなことを思ってしまった。

 ――今はこの沈黙すら、どこか心地いいと、そう感じていた。

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』1巻 P68,L16 - P70,L8 一部省略

 

  雪ノ下雪乃は「自分を変えろ」と言っていたのに、今度は「世界を変える」と言い出す。矛盾しているようだが矛盾していない。彼女の言う「自分を変えろ」と主張する対象に彼女自身は含まれていないから。自分は優れた人間であり、そんな人間が生きづらい世界は間違っている。だから優れていない人間が優れた人間に変わるべきだ、と。

 そして雪ノ下雪乃は、比企谷八幡の「自分の弱さを肯定してしまう部分」を否定する。自分の弱さを肯定できるというのは、ある種強さであると思う。それを否定してしまう雪ノ下雪乃は弱いのだろう。優れた人間が生きやすい世界をと言いながらも、自らも完璧ではないわけだ。ここに関しては雪ノ下雪乃の中の矛盾めいたモノを感じる。

 また比企谷八幡は、雪ノ下雪乃を自分とどこか似ていると言った。本当にそうだろうか。比企谷八幡は弱さを肯定する強さがある。雪ノ下雪乃にはその強さがない。そのことが決定的に彼と彼女の違いを表しているように思える。

 

由比ヶ浜結衣は憧れる

由比ヶ浜さん。あなたさっき才能がないって言ったわね?」

 

「え。あ、うん」

 

「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間に才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ」

 

「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。……やっぱこういうのって合ってないんだよ、きっと」

 

「……その周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

 

「か……」

「かっこいい……」

「建前とか全然い合わないんだ……。なんていうか、そういうのかっこいい……」

 

「な、何を言っているのかしらこの子……。話聞いてた?私、これでも結構きついことを言ったつもりだったのだけれど」

 

「ううん!そんなことない!あ、いや確かに言葉は酷かったし、ぶっちゃけ軽く引いたけど……」

「でも、本音って感じがするの。ヒッキーと話してるときも、ひどいことばっかり言い合ってるけど……ちゃんと話してる。あたし、人に合わせてばっかだったから、こういうの初めてで……」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』1巻 P105,L10 - P108,L7 一部省略

 

 由比ヶ浜結衣は自分を周囲に合わせる人間だ。でもそういう自分にどこか違和感を感じていて、本音を言い合える仲に憧れていた。彼女はそれを奉仕部に見つけたのだろう。比企谷八幡の言葉で言えば、自分に嘘を吐いている人間だが、根っこの部分ではそうじゃない自分を望んでいる。雪ノ下雪乃より、由比ヶ浜結衣のほうが、本質的な部分では比企谷八幡に似ているのではないだろうかと、ちょっとだけ思った。

 

由比ヶ浜結衣は一歩踏み出す

『ヒッキーとかゆきのん見てて思ったんだ。周りに誰も居ないのに、楽しそうで、本音言い合ってお互い合わせてないのに、なんか合ってて……』

『それ見てたら、今まで必死になって人に合わせようとしてたの、間違ってるみたいで……、だってさ、ヒッキーとかぶっちゃけマジヒッキーじゃん。休み時間とか一人で本読んで笑ってて……、キモいけど、楽しそうだし』

『だからね、あたしも無理しないで適当に生きよっかなーとか、……そんな感じ。でも、べつに優美子のことが嫌だってわけじゃないから。だから、これからも仲良く、できる、かな?』

 

『ふーん。そ。まぁ、いいんじゃない』

 

『……ごめん、ありがと』

 

「……なんだ。ちゃんと言えるんじゃない」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』1巻 P147,L10 - P148,L1 一部省略

 

 由比ヶ浜結衣がクラス内グループでおそらく初めて本音を漏らすシーン。まだ言葉は拙くて、取り繕っている風も漂っているけれど、それでも一生懸命に本当の自分を伝えようとしていることがわかる。

 優美子は素っ気ない態度だけど、拒絶はしていない。彼女も何か思うところはあるのだろうか。

 それから、由比ヶ浜結衣は欲張りだなと思った。今のコミュニティの抜けだして奉仕部というコミュニティに入るのではなく、どちらも欲しいと。やっぱり結構芯は強い子なんだろうなあ。

 

 材木座義輝は正しいオタクである

「だが。だがそれでも嬉しかったのだ。自分が好きで書いたものを誰かに読んでもらえて、感想を言ってもらえるというのはいいものだな。この思いに何と名前をつければいいのか判然とせぬのだが。……読んでもらえるとやっぱり嬉しいよ」

 

 そう言って材木座は笑った。

 それは剣豪将軍の笑顔ではなく、材木座義輝の笑顔。

 ――ああ、そうか。

 こいつは中二病ってだけじゃない。もう立派な作家病に罹っているのだ。

 書きたいことが、誰かに伝えたいことがあるから書きたい。そして、誰かの心を動かせたならとても嬉しい。だから、何度だって書きたくなる。たとえそれが認められなくても、書き続ける。その状態を作家病というのだろう。

 だから俺の答えは決まっていた。

 

「ああ、読むよ」

 

 読まないわけがない。だって、これは材木座が中二病を突き詰めた結果辿り着いた境地だから。病気扱いされても白眼視されても無視されても笑い者にされても、それでもけっして曲げることなく諦めることなく妄想を形にしようと足掻いた証だから。

 

「また新作が書けたら持ってくる」

 

 そう言い残して材木座は俺たちに背を向けると、堂々とした足取りで部室を後にした。

 閉じられた扉がいやに眩しく見えた。

 歪んでいても幼くても間違っていても、それで貫けるならそれはきっと正しい。誰かに否定されたくらいで変えてしまう程度なら、そんなものは夢でもなければ自分でもない。だから、材木座義輝は変わらなくていいのだ。

 あの気持ち悪い部分を除けば、な。

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』1巻 P181,L3 - P182,L7

 

 自分で書きたいもの、作りたいものがあって、それをアウトプット出来る人は凄いと思う。尊敬する。だから材木座義輝はカッコいいし、正しいし、尊敬に値する。オタクの正しい在り方のひとつだと思う。友達になりたいかと言われたら話はまた別だけど。

  材木座義輝はたぶん比企谷八幡よりもぼっちだ。だから、もしかしたら、比企谷八幡より弱い自分を肯定できる強さがあるかも知れない。でもやっぱり、比企谷八幡が主人公でなきゃ、この物語は始まらないよね。

 

戸塚彩加はヒロインである

  かわいい。『可愛い』って書くより『かわいい』って書いたほうがかわいい感あると思う。良いお嫁さんになりそうな子ランキング第1位になる感じですねこれは。

 

終わり。