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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。2巻 3巻 雑記

 

比企谷八幡は勘違いをして、間違えた

 「あのさ、別に俺のことなら気にする必要ないぞ。お前んちの犬、助けたのは偶然だし、それにあの事故がなくても俺、たぶん高校でぼっちだったし。お前が気に病む必要全くなし。あ、いや自分で言うのもなんだけどよ」

「悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。まぁ、でもこれからはもう気にしなくていい。俺がぼっちなのはそもそも俺自身が理由だし事故は関係ない。負い目に感じる必要も同情する必要もない。……気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」

 

 ほんの僅か、自分の語気が荒くなったのを自覚した。ああ、いかんな。何をカリカリしてんだ俺は。こんなのなんでもないことなのに。

 俺は苛立ちを誤魔化すようにがりがりと頭を掻いてしまう。さっきから流れているこの沈黙が気まずい。

 初めて沈黙を苦手に思った。

 

「まぁ、その、なんだ……」

 

 とりあえず口を開きはするものの、言うべき言葉が見つからず、具体的なことが出てこない。お互い言葉に詰まると、由比ヶ浜がにへらと笑った。

 

「や、やー、なんだろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんてーの?……や、ほんとそんなんじゃなくて……」

 

 由比ヶ浜はその笑い方のまま、ちょっと困ったように下を向く。俯いているせいで表情は見えなくなった。ただか細い声がちょっと震えている。

 

「そんなんじゃ、ないよ……そんなんじゃ、ないのに……」

 

 小さな声で由比ヶ浜は言う。何処までも優しい由比ヶ浜結衣は、たぶん最後まで優しい。

 真実は残酷だというなら、きっと嘘は優しいのだろう。

 だから、優しさは嘘だ。

 

「あー、まぁなんだ、ほら」

 

 声をかけると、由比ヶ浜はキッと俺を睨みつけた。目に涙を溜めて、それでも俺から目を逸らさず、その強い瞳に俺のほうが目を逸らしてしまった。

 

「バカ……」

 

 そう言い残して由比ヶ浜はたっと走り出した。だが、数メートルも離れると、その足取りは重くなり、心なしかとぼとぼ歩くようになった。

俺はそれを見送り、くるりと踵を返した。

 由比ヶ浜はみんなが待つサイゼへ行ったのかもしれない。けれど、俺には関係ない。

 俺、人混み嫌いだしな。

 あと、優しい女の子も、嫌いだ。

 

 いつだって期待して、いつも勘違いして、いつからか希望を持つのはやめた。

 だから、いつまでも、優しい女の子は嫌いだ。

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻 P257,L3 - P260,L3 一部省略

 

 比企谷八幡は優しい女の子が嫌いで、由比ヶ浜結衣を優しい女の子だと思っていた。だから由比ヶ浜結衣が自分に気を遣っているのだと思い、それを拒絶した。

でもきっと由比ヶ浜結衣は、気を遣って比企谷八幡と一緒に居たのではないのだろう。だから、由比ヶ浜結衣はただの優しい女の子なんかじゃない。

 比企谷八幡は由比ヶ浜結衣を優しい女の子だと勘違いして、由比ヶ浜結衣を拒絶するという間違いを犯した。

 

平塚静は責め立てる

 「君たちは何か勘違いをしていないかね?」

 

 それは問いかけでも確認でもなく、訓告であっただろう。疑問の形をとりながらも暗に俺たちの罪科を責め立てるためのものだった。

 答えられず、俺と雪ノ下が黙ると、平塚先生はなおも続ける。

 

「ここは君たちの仲良しクラブではない。青春ごっこならよそでやりたまえ。私が君たち奉仕部に課したものは自己変革だ。ぬるま湯に浸かって自分を騙すことではない。」

 

 きゅっと唇を嚙みしめて雪ノ下がそっと目を逸らす。

 

「奉仕部は遊びではないよ。れっきとした総武高校の部活動だ。そして、君たちも知っての通り、やる気がない者に構ってやるのは義務教育までだ。自ら選択してこの場にいる以上、意思なき者は去るほかない」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻 P36,L16 - P37,L12

 

 比企谷八幡は人に言われて自分を変えることを嫌う。雪ノ下雪乃は他人に対しては問題解決のために自分を変えろと言うが、自分に関しては例外的で、自分ではなく他者(自己の周囲)を変えると言う。

 自分を変える気がない二人に対して、平塚静は奉仕部を自己変革の場だと言う。なぜ二人を変えようとするのか。そこがまだよく分からない。

 

材木座義輝はやはり正しい

「始め方が正しくなくても、中途半端でも、でも嘘でも偽物でもなくて……、好きって気持ちに間違いなんてない…と、思う、けど」

 

「……そうだ。その通りだ。……たしかに、俺には、誇れるものはない」

 

 声に作りこんだ色はなかった。情けないほど震えていて、つっかえながら、けれどもけっして途切れることはなく、言葉は続けられる。

 

「だから、これに賭ける。それの何がおかしい!貴様らは違うのか!」

 

 ずびっと洟を啜り、わなわなと肩を揺らして、材木座は慟哭した。息も切れ切れで、潤んだ瞳で睨みつける姿はどうみても敗残者のそれだ。

 そんな痛々しい材木座を、秦野と相模は嫌悪に満ちた目で見た。いや、材木座ではなく、痛々しかった頃の自分たちをそこに見ていたのかもしれない。

 ――きっと、彼らだって好きなのだ。夢を抱いていたのだ。

 けれど、夢は一人で背負い続けるには重すぎる。

 大人になるにつれ、リアルな将来が見えてきて夢物語ばかり追っていられなくなる。

 みんな冗談交じりに働いたら負けだっつーが、あながち間違ってやしない。

 そんな世界で夢だけ負う生活は苦しくて悔しくて、考えただけでため息が出る。

 好きなだけじゃダメだったのだ。

 だから彼らは補強した。知識を蓄えて、夢だけ見てる連中を眺め自分は違うのだと己を鼓舞した。

 ――けっして諦めたくないから。その行為を否定することがどうしてできる。

 

「……あんた、現実知らなすぎだよ。現実と夢は違う」

 

「そんなことはとうの昔に知っている!作家になると投稿を続けていたゲーセン仲間は就職した!二次選考に通ったことを自慢していた人は今ニートだ!俺だって、現実くらい、知っているんだ……」

ラノベ作家になると言えば、聴いた奴の九割九分は『バカな夢見てんじゃねーよ』だの『現実見ろよガキ』だのと腹の底でせせら笑ってることだって、知っている!それでも……」

 

 ……そうだよな。俺たちは現実を知っている。

 だからいつしか諦めて、夢を見ていた自分を、夢を見ている人を笑いたくなる。笑って、誤魔化したくなる。

 だっていうのに、なんだってこいつは泣き叫びながら、洟を啜りながら、声を震わせながら、夢を語れるんだろうな。

 

「今、はっきりと確信した。我は作家になれなくてもライターになれなくても、それでも書き続ける。なりたいから好きなわけではない!……好きだから、なるのだ!」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻 P214,L16 - P217,L9 一部省略

  

 めちゃくちゃカッコいいじゃん、材木座。

 「現実見ろよ」なんて言葉、ゲーム作りに関わろうとしてる人間が使う言葉じゃないよね。人に夢見させるモノ作ろうとする人間が「現実見ろよ」とか言っちゃったらお終いでしょ。だから材木座は正しい。

 現実と夢は違うかもしれないけれど、夢が不可能なものってわけじゃない。夢作ってる人間が、夢を否定しちゃダメだよね。だから秦野と相模の「夢を見ることの否定」は間違っていると思う。だけど、彼らが現実を見て、現実的な努力をしていることは正しいし、その点に関しては、何もしていない材木座が間違っている。秦野と相模が間違っていたのは「現実だけを見ていた」という点。

 

 比企谷八幡と由比ヶ浜結衣が始まる

 これで開放されるのだ、全部終わりにできる。痛々しい勘違いも見当違いの自衛行動も。たぶん、これすらも痛々しい勘違いで見当違いの自衛行動なんだろうけど。

 

「……なんでそんなふうに思うの?同情とか、気を使うとか、……そんなふうに思ったこと、一度もないよ。あたしは、ただ……」

「なんか、難しくてよくわかんなくなってきちゃった……。もっと簡単なことだと思ったんだけどな……」

 

「別に、難しいことではないでしょう」

「比企谷くんには由比ヶ浜さんを助けた覚えはないし、由比ヶ浜さんも比企谷くんに同情した覚えはない。……始まりからすでに間違っているのよ」

 

「まぁ、そうだな」

 

「ええ。だから、比企谷くんのいう、『終わりにする』という選択肢は正しいと思う」

 

 始め方が間違っていたのだから、結果もまた間違っていて当然だ。そこにどんな想いが込められていたとしても、答えはきっと変わらない。

 仮に。もし仮に。その想いがなにか特別なものであったとしても、だ。

 偶発的な自己で芽生えただけの感情を、自己犠牲を払ったおかげで向けられた同情を、他の誰かが救ったとしても生まれていた可能性のある恋情を、本物と認めることはできない。

 俺が彼女を彼女と認識せずに救ったのならば、彼女もまた、俺を俺と認識せずに救われたのだから。なら、その情動も優しさも俺に向けられているものではない。救ってくれた誰かへのものだ。

 だから勘違いしてはいけない。

 勝手に期待して勝手に失望するのはもうやめた。

 最初から期待しないし、途中からも期待しない。最後まで期待しない。

 由比ヶ浜はしばらく黙りこくっていたが、ぽつっと呟いた。

 

「でも、これで終わりだなんて……なんか、やだよ」

 

「……馬鹿ね。終わったのなら、また始めればいいじゃない。あなたたちは悪くないのだし」

「あなたたちは助けた助けられたの違いはあっても等しく被害者なのでしょう?だなら、全ての原因は加害者に求められるべきじゃない。だったら……」

「ちゃんと始めることだってできるわ。……あなたたちは」

 

――『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻 P238,L1 - P240,L7 一部省略

 

 この一件、勘違いをしていたのは最初から最後まで比企谷八幡ただ一人だ。由比ヶ浜結衣は気を遣っていたわけではないし、救ってくれた誰かへの想いを向けていたわけでもない。だから、「勘違いをしてはいけない」という想いそのものが勘違いだ。

 「たぶん、これすらも痛々しい勘違いで見当違いの自衛行動なんだろうけど。 」という文から、そのことに比企谷八幡自身気づいているのだろうが、そう思いながらもその自衛行動を取ったのかがいまいちわからない。わからないのでこれについては書かない。わかったら書く。