『生命のスペア』 雑記

 『生命のスペア I was born for you.』というタイトルであるが、作品から伝わってくることは「生命に代用はないし、あなたは他人の代用として生まれたわけじゃないよ」といった感じで、タイトルとは逆を行くような印象だった。

 逆を行くという点では『できない私が、くり返す。』の時も同じようなことを感じたし、ライターがそういうのが好きなのかも知れないと思えた(中島大河シナリオはこの2本しかやってないのでこれだけで判断するのはどうかとは思うけど)。

 

 主人公や周辺人物が超常的な能力を持っていたり、世界そのものの在り方が僕らの居る世界と違ったりということは特になく、作品の世界観は三次元的であったと思う。

 主人公と恵璃の人生観というか思想の在り方というか、それに関しては主人公は二次元的、恵璃は三次元的であったように思う。ただ、恵璃に関しては時が進むに連れてその在り方が二次元的方向へのシフトしていたので、最終的には二次元的であったと思う。作中でそう感じる場面は何度もあったが、印象的なのは

 

 恵璃

「しあわせなまま長生きするって?

 ふうん、贅沢なこと言っちゃうんだね」

 

竜次

「でも、それが理想だろう」

 

恵璃

「まあね。……ま、理想は理想のままなんだけど」

 

――『生命のスペア』

 

恵璃

「奇跡、って呼んでいいのかな?これは」

 

竜次

「その呼び方するなら、もう少し違う何かが起きて欲しかった」

 

恵璃

「痣が綺麗さっぱり消えましたー、とか?」

 

竜次

「そう、だな。それくらいの方が奇跡って呼べる」

 

恵璃

「ま、残念ながらそんなことはないっぽいけどね」

 

――『生命のスペア』

 

 恵璃

「やだよ、生きたいよ……!

 竜次と、もっと……もっと、過ごしてたい……!!」

 

竜次

「っ……諦めてるって、言ってなかった、か……っ?」

 

恵璃

「その、つもり、だったよ……?

 ちゃんと死ぬ覚悟、できてるつもりだった……!」

「でもっ……でもぉ!

 竜次と離れたくないって気持ち、すごく、強い……!」

「嫌だよぉ……!

 ずっと、竜次と、生きていたい……!!」

 

――『生命のスペア』

 

 上二つの引用は竜次が二次元的で恵璃が三次元的、最後の引用は物語終盤で、この場面では両者ともに二次元的思想となっている。恵璃の諦めの姿勢が終盤になって揺らいだのは、竜次が一貫して諦めない姿勢を貫いていたからなのだろうと思う。二次元世界に於いて最も力を持つのは、やはり理屈や理論ではなく世界認識や意思の力なのだと思うことが多い。

 ただ、本作品は二次元作品ではあるが三次元的作品であるため、竜次の意思の力が干渉できたのは恵璃の意思のみに留まり、ああいう結末になったのだと思う。奇跡の起き得ない世界で奇跡を願いながら生きていく姿は、傍から観ているととても息苦しいものだった。そして、この息苦しさが本作品のひとつの魅力というかポイントのようなものだったと思う。

 あとは最初に書いたように「生命に代用はないし、あなたは他人の代用として生まれたわけじゃないよ」という、生命の唯一性がこの作品の主だったメッセージだと思う。言ってることは単純で、ありきたりと言ってしまえばそれまでだけど、そのメッセージを光らせるだけの視覚や聴覚への情報量と演出があり、ミドルプライスでここまで出来るのであれば十分良い作品だと思える。